|
発光する天使/H・アール・カオス「垂直の夢」 (ダンスマガジン 2001年9月号)
真っ暗な舞台。上手の高い台に男がひとり立っている。男の頭上に降り注ぐ噴射煙のような照明が、ロケットのように上昇していく。男は後方に仰向けに倒れ込み、消える。
H・アール・カオスと、昨年解散したLUNA SEA の元ギタリスト、SUGIZOとのコラボレーションはそんなふうに始まる。SUGIZOはたんにミュージシャンとしてダンス公演に参加しているわけではない。ギターを抱えた彼は、チョーキングによるウィーンという音をえんえんと会場に響かせ、観客を独特のバイブレーションに同調させていくのだが、それだけでないのだ。右に述べた、冒頭に登場する男もSUGIZOだし、彼のダンサーとの掛け合いはじつに「はまって」いる(なんとも自然なのだ)。途中、彼はワイヤーで吊られ、文字通り昇天し、発光し、燃焼し、息絶え、そして復活する。彼は熟練したダンサーのように鍛えられ、しなやかな体を、作品全体のバイブレーションに見事にシンクロさせていた。存在感あるパフォーマーとして活躍していた。おそらくファンたちが今まで見たことのなかった、SUGIZOのそうした側面を巧みに引き出したのは、演出振付の大島早紀子だろう。
コンテンポラリー・ダンス界で、H・アール・カオスは「見せる(魅せる)」舞台作りでは群を抜いている。新作のたびに、斬新な舞台演出が私たちに衝撃を与えるが、今回はとくに密度が高かかった。
舞台が幾層にもなっていて、高い舞台から階段を転げ落ちるダンサーが照明の中に浮かんでは闇に消える。と、そのダンサーのクローンのようなダンサーが一段下の舞台から階段を転げ落ち、さらに別のクローンがさらに下の階段を転げ落ちる、といった光景がストロボのような照明の中で強迫的に反復される。しかもダンサーたちは宙返りをして頭から階段を落ちていくのだから、スリリングだ。
舞台前面の床に、四角い穴がある。よく歌手や役者がせりあがってくる穴だが、この穴がじつに多様に使われている。そこから下の世界は心の地下室、すなわち深層であり、冥界であり、過去である。そしてそこは舞台のいちばん上と通底している。地下に消えていったダンサーは、次の瞬間に舞台のいちばん高い所にあらわれるのだ。
荒海のように舞台全面を覆う銀布も、最後に降り注ぐ雪のような光る布片も、じつに効果的に用いられている。
SUGIZOがキリストのように昇天した後、舞台後方の闇の中を、ダンサーたちがまるで鬼火のようにすっと上昇していく場面がある。舞台装置操作用のバトンに体をくくりつけているそうだが、その美しさには不覚にも目頭が熱くなった。
大島は思いつきの人ではない。彼女は綿密な演出ノートを準備するタイプで、あらゆる細部が計算し尽くされている。それもたんなる視覚効果だけを狙った計算ではなく、大島はつねに舞台の奥底に形而上学的なテーマを見据えている。H・アール・カオスの舞台を少なくとも三回見た人ならうすうす気づいているだろう。彼女が繰り返し取り組んできたのは「死と再生」のテーマであるということを。
そうした大島の企図を、ダンサーたちが見事に現実化している。白河直子はいつものように、その硬質で両性具有的でダイナミックな動きで観客の視線を釘付けにし、シンプルなワンピースを着た奥山由美子はそれとは別種の、もっと丸みのある、だが芯の太い踊りで、白河とは別の方向から作品を支えていた。H・アール・カオスの代表作のひとつになるであろうことは疑いない。
|