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身体の内側からあふれだす美しさ
(ダンスマガジン 2001年10月号)
現在日本で最も眼を惹くバレリーナ、それは疑いなく下村由理恵である。長いことスコティッシュ・バレエ団のプリマとして活躍した後、現在は国内でフリーとして活動している彼女が、豪華な男性ゲストたちを迎え、郷里の福岡で初リサイタルを開いた。会場は、福岡のみならず関西や首都圏から駆けつけたファンたちで満員であった。
いまの彼女は「踊るのが楽しくてしょうがない」という気持ちを全身から発散している。「パワフルな男性パートナーたちからパワーをもらっているんです」というが、それにしても彼女自身のパワフルぶりには圧倒される。自分のリサイタルとはいえ、五作品で踊った。
第一部は「パキータ」。ダンスールは佐々木大。二人とも最初からエンジン全開で飛ばす(ちょっと飛ばしすぎの感あり)。
第二部は小品集。まず下村と森田健太郎による「バレエの情景」のパ・ド・ドゥ。高尾恭代の「PREST」と浅見紘子の「アブサート」を挟んで、下村と山本隆之による「ロミオとジュリエット」のバルコニーのシーン。女性ソリスト五人による「海賊」より奴隷の踊りを挟んで、下村と佐々木大による「ドラマ」(ピアソラを使った作品)。第二部の作品はすべて篠原聖一の振付だが、最後に「飛び入り」で、篠原自身が「私のチャップリン」を踊った。個々の作品について論評する紙幅がないのが残念。
第三部は「オーロラ姫の結婚」。王子は森田健太郎。「青い鳥のパ・ド・ドゥ」の山本隆之は「まだこれから」だが、基本がしっかりしていて芯があるから、今後の成長が楽しみ。相手役は、クラシック・バレエでもコンテンポラリーでも目の覚めるようなダンスを見せる島田衣子。エッジの立った鋭い踊りを見せたが、欲を言えばもう少し優雅に踊って欲しかった。
下村のオーロラは定評があるが、私は見ていて目から鱗が落ちる思いがした。技術的にはもう何もいうことがない。完璧の一語に尽きる。だがそれ以上に、あんなに表情豊かなオーロラ姫を見たのは生まれて初めてだ。口は動いていないのに、愛情のこもった言葉を王子に語りかけながら踊っているのだ。下村は役に「入ってしまう」タイプのバレリーナである。だから彼女のジゼルも絶品だが、オーロラは何しろメルヘンの主人公だから、本来、個性というものがない。ひたすら上品で愛らしく、可憐にして優雅だ。ところが下村のオーロラはそうした美しさが身体の内側からあふれ出てくるのだ。下村のオーロラは何度も観ているが、今回が最高である。
対する森田健太郎は、またちょっと太ったようだが、その踊りは要所要所をきちんと決めているだけでなく、絵に描いたようなロイヤル・スタイルで、なんとも優雅。これほどのダンスール・ノーブルは日本にほとんどいないといっても過言ではない。
ソリストたちの中では、この夏ドイツのバレエ団に入団するという荻本美穂と、フィンランド国立バレエ団所属の中川真樹が、体型にも恵まれ、踊りもダイナミックで眼を惹いた。
第二部の小品集はもちろん、「パキータ」も「オーロラ姫の結婚」も、芸術監督の篠原聖一がしっかり細部まで目配りしている。彼がこのリサイタルを陰でしっかり支えていることがよくわかる。日本のバレエ界でフリーで活動していくことはけっして容易ではないのに、この夫妻はじつに精力的に活動している。今後も注目し続けていきたい。
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