高水準で「品の良さ」も追求
Kバレエカンパニー「トリプル・ビル」
(日経新聞 2005/9/5)

 いまやわが国最高の公演回数を誇るバレエ団。今回の目玉は「放蕩息子」。今日のバレエ隆盛の基礎を築いた史上最強のバレエ団「バレエ・リュス」最後の作品。一九二九年に初演された。音楽はプロコフィエフ、美術はルオー、振付は抽象バレエの巨匠バランシン。
 物語は新約聖書中の寓話にもとづく。家を飛び出して放蕩の限りを尽くし、一文無しになって帰ってきた息子。まじめに父に仕えていた兄(バレエでは姉)たちは反対するが、父親は末の息子を祝福する。
 この寓話のこころは、親鸞の「善人なをもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」と同じく、信仰篤い人が救われるのは当たり前だが、悪人だって悔い改めれば救われるということ。
 坊主頭の男たちがウンチング・スタイルで連なってムカデ歩きをするところなど、当時の観客は仰天したはずだが、今見ても新鮮。
 熊川哲也がこの作品を選んだことは納得がいく。振付がじつにアクロバティックなのだ。バリシニコフの素晴らしい映像が残されているが、熊川は彼を超えた。バリシニコフの外向的で大げさな演技に比して、熊川の内省的で陰影に富む演技は、放蕩の空しさと悔恨をじつによく表していて、胸を打った。
 彼を誘惑し、身ぐるみ剥いでしまう妖女サイレーンの役には、男を骨抜きにする魅力が求められるが、中村祥子は硬質でダイナミックな踊りで大役を見事にこなしていた。
 併演の「シンフォニック・ヴァリエーション」は英国バレエの代表者アシュトンの作品。「パッシング・ヴォイス」は熊川の振付。どちらにおいても、このバレエ団のソリストやコール・ド・バレエが高水準であることを示すと同時に、熊川がいちばん神経を使っているのが「品の良さ」であることがよくわかった。
 8月28日、文京シビックホール。