原典に近い「厚み」を期待
東京バレエ団「眠れる森の美女」
(日経新聞 2005/8/25)

  誰もが知っている昔話のバレエ化。大勢のダンサーが登場するバレエだが、観客の関心はやはり主役のオーロラ姫とデジレ王子に集中する。今回は小出領子とマニュエル・ルグリ、上野水香とマチュー・ガニオというダブル・キャストだが、後者を見た。
 オーロラ姫は、高度な技巧が求められるわけでもなく、ジゼルのような演技力が要求されるわけでもないが、存在そのものが「お姫様」のオーラを発していなければならないという非常に難しい役。上野はつねに「日本人離れしたスタイル」と形容される。実際、その長い脚は見ていて惚れ惚れするし、身体能力も高いが、今回はかすかに「ぎくしゃく」するところが気になった。
 ガニオは、父母ともに元有名ダンサーという「サラブレッド」。異例のスピードでオペラ座のエトワール(ダンサーの最高位)になった。今どきの言葉でいえば典型的なイケメン・ダンサーである。技術的には未熟さが残っているが、バレエの主役は、ダンスール・ノーブルという呼称が示しているように、重要なのは技術よりも存在の高雅さだ。その点では立ち姿といい、身のこなしといい、古い言い方かも知れないが、日本人には真似ができない。
 他のダンサーでは、フロリナ王女の小出が秀逸。魔女役の奈良春夏にはもう少し存在感が欲しかった。
 この作品は百十余年前に初演されたクラシック・バレエの最高傑作。バレエ団ごとに少しずつ演出振付のちがう『白鳥の湖』とは対照的に、変わった演出振付はめったにないが、このバレエ団はあちこち大幅にカットしているし、舞台に上がるダンサーも少ない。日本を代表する大バレエ団のひとつなのだから、もっと原典に近い形で、厚みのある上演を試みてもいいのではないか。
 17日。東京文化会館。