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渾身の力込め 愛を謳う
ベルリン国立バレエ団「ニーベルングの指環」
(日経新聞 2005/7/7)
権力の象徴である指環をめぐる、神、人間、巨人族、小人族あいみだれての争いを描いた、上演に四晩かかるワーグナーのオペラを、二十世紀バレエの巨人モーリス・ベジャールが一晩のバレエに仕立て上げた。正味四時間を超える大作だが、少しも長さを感じさせない。ベルリンの壁の崩壊後、ベルリン・ドイツ・オペラで初演された。
舞台はバレエの稽古場。その稽古場と神話の世界とがつねに二重写しになっている。厚みのある管弦楽を舞台上のピアノ一台で演奏し、時折、録音されたオペラが流れる。台詞、歌詞は語り手(ミカエル・ドナール)が一手に引き受け、さらに字幕が注釈的なト書きを映し出す。
神も人間も物欲と権力欲に駆られて殺戮を繰り返す世界に、救済の光を投げかけるのは、愛だ。ベジャールは渾身の力を込めて、愛を謳いあげる。とくに第二夜「ワルキューレ」の後半、最高神ヴォータンと娘ブリュンヒルデが睦み合う場面は、オペラでも「泣かせどころ」だが、ベジャールは、彼のスタイルの特徴である官能性に溢れた美しいデュエットを振り付け、まさしく圧巻。
ゲスト・アーティストのディアナ・ヴィシニョーワがブリュンヒルデ役を演じて秀逸。羽のついた兜に黒革のボディスーツという姿でも、それを脱いだときの白いレオタード姿でも、筋肉質のひきしまった体が変幻自在の表現力を発揮する。
火の神ローゲ役のウラジーミル・マラーホフも、諧謔と虚無を湛えた深みのある踊りで眼を惹いた。
ワーグナーはオペラという贅沢な娯楽を使って古代の神聖な儀式を再生しようと考えた作曲家だ。ベジャールもまた劇場を祝祭と儀式の空間へと変容させようとした振付家である。創られるべくして創られた作品といえよう。
6月26日、東京文化会館。
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