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完成した「無言劇」ケンプ好演
愛と幻想のシルフィード
(日経新聞 2005/6/30)
王子が男性の白鳥に恋するという『白鳥の湖』によって世界的名声を得た振付家マシュー・ボーン。いまや古典バレエの大胆な改作に関しては他の追従を許さない。今作は、現在でも上演されるバレエとしては最古の部類に入る『ラ・シルフィード』(一八三二年初演)のパロディ。
オリジナルの舞台はスコットランドのハイランド。主人公の青年は婚約者がいるにもかかわらず、シルフィード(森と空気の妖精)に魅了され、追いかけていくが、魔女の奸計により誤って殺してしまう。その間に婚約者は別の男性と結婚してしまう。
ボーンは舞台を現代のグラスゴーに移す。物語は、クラブ(ディスコ)のトイレから始まる。主人公の青年の婚約パーティの最中らしい。青年がトイレに駆け込んできて、便器に倒れ込み、ドラッグに耽り、妖精の幻覚を見る。彼は婚約者を捨てて、妖精を追いかけるが、二人だけの生活をするために羽を切り落とした瞬間、妖精は死んでしまい、彼は無間地獄をさまよう。
スコットランドとドラッグといえば、映画『トレイン・スポッティング』が思い出されるが、実際、この映画の影響がはっきり見て取れる。映画のユアン・マグレガーに相当する主人公の青年を、ロイヤル・バレエ学校出身のウィル・ケンプが好演している。お人好しで、お茶目で、けっこう笑わせる。
対してケリー・ビギン演じる妖精は痛々しい。ドラッグ中毒でぼろぼろになっているらしく、眼のまわりには深い隈。純白の衣裳は汚れて黒ずんでおり、羽を切られると血まみれになって死んでいく。
ボーンの演出にはすでに円熟味が見られ、ダンスによる無言劇としての完成度が高いため、台詞の必要性をいっさい感じさせない。
10日まで、東京芸術劇場。(舞踊評論家・鈴木晶)
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