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蜂蜜を連想させる幸福感
ピナ・バウシュ「ネフェス」
(日経新聞 2005/6/20)
冒頭、腰にタオルを巻いた裸の男たちが出てくる。彼らはハンマーム(トルコの公衆浴場)にいるらしい。ピナ・バウシュは国際共同シリーズとして、ブラジル、ハンガリー、韓国、日本などを題材にした作品を制作してきたが、今作はトルコに取材したもの。
ただし、トルコの風物詩と思いきや、寝そべった男たちの頭上で、女たちが長い髪を櫛けずりはじめる。観客はいきなり「ピナ・ワールド」に引き込まれる。女たちは、このヴッパタール舞踊団にとってのユニフォームともいうべきロングドレスにハイヒールという姿。
例によって何十もの短い場面から構成されているが、一時期のように寸劇風のエピソードだけが連なるのではなく、ソロ・ダンスが連なり、その合間に寸劇風のエピソードが挿入されている。
後半で映像が使われるが、装置はほとんどない。ただ、舞台の中心から水が浸み出し、いつのまにか池ができ、そこに滝のような雨が降り注ぐ。
何よりもこの作品の特徴は、男女関係に介在する暴力、愛の渇き、異文化間のコミュニケーション不全といった、かつてのテーマがなりをひそめ、幸福感が全体を満たしていることだろう。マッサージを受けるときのような、全身を優しく包む至福感だ。
インドネシア、インド、韓国、日本といったアジア出身の女性ダンサーたちが、胴、腕、手をくねらせて踊るが、自己陶酔しているようだ。時おり、棘のように、男女間の微妙なずれも描かれるのだが、それをも、蜂蜜を連想させるような甘い幸福感が包んでしまう。
「何度でも見たい」という人は多い。この「ピナ依存症」をもたらす成分は何なのか。それを解明するのが批評家の仕事であろうが、まだ私の手には負えない。14日、新宿文化センター。(舞踊評論家・鈴木晶)
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