「踊り心」が生み出す幸福感
ローザス「ビッチェズ・ブリュー/タコマ・ナロウズ」
(日経新聞 2005/4/14)

 コンテンポラリー・ダンスの旗手のひとり、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの率いるローザスは、日本のダンス界にも大きな影響力を及ぼしている。
 その舞台はいつも、独特の躍動感と疾走感(ダンサーたちは激しく踊り、よく走る)、また幸福感(ダンサーたちはじつに楽しそうに踊る)に満ちている。その点は今回も同じだが、創作手法はこれまでとまったく異なる。
 これまで、ケースマイケルは細部にまで厳密な振付をほどこしていた。ダンサーたちは一見すると無秩序に走り回り、よく衝突しないものだと観客をはらはらさせるのだが、じつはすべての動きが緻密な計算にもとづいているのだ。だが今回の作品は大部分が即興(インプロヴィゼーション)による。
 用いている曲は、マイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」。このアルバムは、マイルスと仲間たちがスタジオにこもって何十時間も延々と続けた即興演奏を録音し、編集したものだ。
 その曲にのって、ダンサーたちは大きなフォーメーションを形成し、またそれを散開する。ソロのミュージシャンが交代すると、ダンサーも交代し、それぞれ個性的なソロを見せる。そのダンスは、全身の各部分をできるだけ別個に動かすという、コンテンポラリー・ダンスのひとつの典型だが、後半になるとしだいにブレイク・ダンスの要素が強くなっていく。
 当然ながら即興は、個々のダンサーがどれだけ豊富な語彙と表現力をもっているかに左右されるので、全部のパートが面白いとはいえず、中だるみが多少感じられたが、それでも見終わった後に幸福感が残ったのは、このカンパニーのダンスがつねに「踊り心」とも呼ぶべきものをもっているからだろう。彩の国さいたま芸術劇場、10日。