「抽象」と「心理」、両極端を併演
スターダンサーズ・バレエ団公演
 (日経新聞 2005/3/31)

  二十世紀初頭の、アメリカの田舎町。上手の家の玄関に、若い娘がさびしそうにすわっている。厳格でとりすました姉からは疎んじられ、ひそかに思いを寄せている男性は、活発な妹に奪われてしまい、娘は衝動的に見知らぬ男に身をまかせてしまう。だがその男からはすぐに捨てられ、姉妹からは絶縁され、町中の人から後ろ指をさされ、絶望の淵に立たされた彼女の前に、思いを寄せていた男性が戻ってくる。
 シェーンベルクの『浄められた夜』を用いたアントニー・チューダーの『火の柱』は、太平洋戦争中の一九四二年に初演された。わが国ではスターダンサーズ・バレエ団が一九六五年に初演して以来、同バレエ団がレパートリーとしているが、けっして人気演目とはいえず、数年に一度しか見ることができない。
 二十世紀バレエの主流は、物語性を排除した抽象的な身体表現として発展したが、異端児であるチューダーは、目に見えない人間心理を身体で表現することに専心した。
 チューダー自身が遅くバレエを始めたこともあって、その振付は、古典バレエを見慣れている目には、妙にぎくしゃくしていて、奇怪に映る。だが彼が切り開いた心理バレエは、その後クランコ、マクミラン、ノイマイヤーらによって実りをもたらしたし、抽象バレエがある意味で行き詰まり状態になっている現在、ふたたび心理バレエへの関心が高まっている。
 演目は他に、バランシンの『ウェスタン・シンフォニー』と、バランシンの後継者フォーサイスの初期作品『ステップ・テクスト』。抽象バレエと心理バレエという両極端を併演することで二十世紀バレエの特徴を浮かび上がらせようという、好プログラムだ。12日、簡易保険ホール。