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郷愁を誘う孤独なダンス
ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団「天地 TENCHI」
(日経新聞 2004/7/15)
舞台上手の巨大なオブジェは、海面上に飛び出した鯨の尾鰭だ。下手には背中も見える。休憩の少し前から幕切れまで、花弁のようにも雪のようにも見える紙片が降り続ける。
タンツテアターという独特のスタイルを確立し、世界各地で絶大な人気を誇るピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団の最新作は、埼玉県などとの共同制作だ。
女性が別の女性の背中に、筆で刺青のような絵を描く。サラリーマンたちはスーツを着て、首の回りに何本もネクタイを巻き付けて右往左往する。旅行添乗員は「アイアムソーリー」を繰り返しながら、観光客を急かす。森山良子の「さとうきび畑」を使ったソロダンスもある。だが、そうした日本で拾った題材は全体のごく一部でしかない。ピナの関心は日本を描くことにはない。
この最新作も従来通り、百以上の短い場面からなるが、どの場面からも、物語はむろんのこと、なんらかの意味を読みとることは不可能だ。ゴム製の蛇をクビに巻き付け、それに噛み付く男。最前列の観客一人ひとりの指に触っていく女。客席に向かって「いびき、かけますか」と繰り返す男。すべての場面が解釈を拒否する。
だが、訳がわからないにもかかわらず、観る者は強烈な既視感と郷愁に襲われながら、その世界にどっぷりと身を委ねてしまう。こんな世界は、ピナの舞台以外では見ることができない。
以前の作品と比べると、ダンス・アンサンブル、つまり集団のダンスがない。また、カップルが男女関係の葛藤を演じる場面もない。一時期よりもずっとダンスが増えたが、すべてソロなのだ。しかもそのソロがどれも、なんともいえぬ暗い静謐感と孤独感に満たされている。ピナは新たな転機を迎えたのかもしれない。10日、彩の国さいたま芸術劇場。
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