少女の心理演じきる
東京バレエ団「くるみ割り人形」
 (日経新聞 2003/12/11)

 さあ今年も日本じゅうで『くるみ割り人形』が上演される季節がやってきた。お子様向けのストーリーなので、日本で上演される『くるみ割り人形』には子どもが登場することが多いが、東京バレエ団の『くるみ割り人形』は、すべての登場人物をおとなが演じるために、全体の雰囲気が落ち着いていて、おとなの鑑賞にも堪えるものになっている。
 このバレエの演出は、主人公の少女を子どもが演じ、最後のグラン・パ・ド・ドゥの金平糖の精をおとなが踊るという演出と、両方をおとなが踊り通す演出との二つに分かれるが、東京バレエ団が上演するワイノーネン版は後者の代表で、当然、前者の演出よりずっと主人公に重みがある。
 今回主人公を演じたのは、今年五月に同じく東京バレエ団の『眠れる森の美女』で衝撃的な日本デビューを果たしたポリーナ・セミオノワである。パートナーはそのときと同じウラジーミル・マラーホフ(いうまでもなく世界のバレエ界のトップに立つダンサーだ)そのマラーホフの熟練したサポートで、若き舞姫の魅力がはじけた。
 名ダンサーの必要条件は超絶技巧と表現力(そしてそれが生む高度な芸術性)である。バレエの場合、それらに加えて美しい体型と美貌が求められるのだが、セミオノワは愛らしい顔と、小顔で手足が長いという素晴らしいプロポーションに恵まれている。アラベスクで見せる首筋から肩、腕にかけての線はなんともいえず美しい。しかも、超絶技巧をいとも簡単そうにやって見せる。動きが安定しているのは、平衡感覚が抜きん出ているためだろう。
 さらに、その演技はとても繊細で、幼いながらも性愛に目覚めつつある思春期の少女の微妙な心理を見事に演じきり、『眠れる森の美女』以上にその魅力を発揮していた。大輪の花のつぼみが開きはじめたところを眺めているようだった。11月30日、東京文化会館。