蠱惑的なタマラ・ローホ
世界バレエフェスティバル
 (日経新聞 2003/8/21)

 三年に一度東京で開かれる世界バレエ・フェスティバルも今回で十回目を迎えた。いまや世界で最も有名なバレエの祭りである。AプロBプロ各四日間、加えて二つの全幕物(『ドン・キホーテ』『ジゼル』)、そしてガラ二日間という大規模な催しだ。チケットはけっして安いとはいえないが(ガラはS席二五、〇〇〇円)、全日完売だそうだ。それもそのはず、世界のトップスターが一堂に会し、百花妍を競う催しだ。
 ガラにはのべ十六組のダンサーが出演した。ソロが三つ、あとはすべてパ・ド・ドゥ(男女のペア)だが、一流なのはダンサーだけではない。演目もまた名品ぞろい。十九世紀末にヨーロッパで大ヒットした「エクセルシオール」、ノイマイヤーの「マーラー交響曲第三番」などは日本ではめったに見られない作品だ。
 アンドレイ・ウヴァーロフとともに「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を踊ったガリーナ・ステパネンコは、峠を過ぎているとはいえ、「これこそが古典バレエだ」と言わんばかりの堂々たる踊りぶりで、正確極まる古典的テクニックを披露した。いっぽう、第五回目(一九八八)以来、毎回ユニークな作品を選んでは観客を驚かせてきたシルヴィ・ギエムはきっと「古典作品でテクニックを見せることはもう卒業した」と思っているにちがいない。ニコラ・ル・リッシュを相手に、異色の振付家マツ・エックの「アパルトマン」を踊った。
 一堂に会したスーパースターのなかでも「その年の星」という存在が、これまでも毎回いた。今年の星はガラの最後に、ホセ・カレーニョと「ドン・キホーテ」を踊ったタマラ・ローホだろう。小柄ながら美貌に恵まれ、アラベスクのまま片足の爪先立ちで微動だにしないとか、フェッテ(片足を蹴り上げながらの回転)ではトリプル(連続三回転)を連発するとかの超絶技巧で、その蠱惑的な姿を観客のまぶたの裏に焼き付けた。(14日、東京文化会館)