古典を洗練、時代を超える
パリ・オペラ座バレエ団/ジュエルズ
 (日経新聞 2003/3/31)

 いちばん広く知られている『白鳥の湖』とか『ジゼル』といった十九世紀のバレエはどれも舞踊と演劇を合体させたものだが、二十世紀に入ると、演劇的要素を捨て去り、純粋舞踊だけで構成されたバレエが作られるようになった。その抽象バレエの創始者が、ロシア出身で、アメリカにバレエを根付かせたジョージ・バランシーンである。物語なんかいらない、物語は観客が勝手に頭のなかで作り上げればいい、そう考えていた彼の作品は「眼で見る音楽」とも呼ばれる。
 フォーレの音楽を使った「エメラルド」、ストラヴィンスキーを使った「ルビー」、チャイコフスキーによる「ダイヤモンド」の三部からなる『ジュエルズ』は、オペラ座のレパートリーに加わったのはごく最近だが、四十年近く前のバランシーン作品である。ダンサーは第一部では緑、第二部では赤、第三部では白の衣裳をつけ、宝石になって踊る。ソロあり、パ・ド・ドゥあり、パ・ド・トロワあり、群舞ありで、ダンサーたちがその身体を使って、舞台上にさまざまな幾何学模様を描いていく。さながらクラシック・バレエの博覧会である。
 いやむしろ、クラシック・バレエをさらに洗練させて後世に残そうという企てのように見える。実際、その踊りは時代を超越しており、古さを感じない。
 しかし、どんな抽象的な舞踊にも、観客は物語を見ようとするものだ。ところがオペラ座の上演する『ジュエルズ』はドラマ化を極力避けているように思われた。それは振付者の思想に忠実な解釈かもしれないが、全体に「無難にまとめている」ような印象を受けた。最近世代交代した若いエトワール(オペラ座の最高位のダンサー)たちが小粒なのかもしれない。
 だがそんななかで、クレールマリ・オスタのソロ、アニエス・ルテステュとジョゼ・マルティネスのパ・ド・ドゥの完成度の高さは、強く記憶に刻まれた。23日、東京文化会館。