鮮烈に人間の深み表現
NDT−I
 (日経新聞 2002/10/28)

 世界のバレエ界の頂点に立つ振付家のひとり、イリ・キリアンが率いるネザーランド・ダンス・シアター(以下NDT)のユニークな点は、I(メイン)、II(若手)、III(ベテラン)の三グループに別れて活動していることだが、その三グループがそろって来日した。
 オランダのデン・ハーグに本拠を置くこのカンパニーは、彩の国さいたま芸術劇場と密接な関係にあり、しばしば来日している。今回も三グループそれぞれレベルの高い舞台を見せてくれたが、ここでは I を取り上げる。上演三作品はいずれもキリアンの振付。
 「ウィングズ・オブ・ワックス」(1997年初演)はイカロスのことを指しているらしい。キリアンは振付のみならず、音楽、舞台美術、映像の導入においても特異な才能を発揮し、他の振付家の追従を許さないが、この作品の舞台も鮮烈な印象を残す。一本の大きな枯れ木が根を上方に広げ、枝を下方に広げて吊り下がっており、そのまわりを低いスポットライトがゆっくりと回っている。そのもとで、男女八人が複雑に身体を絡ませながら、さまざまなフィギュアを描き出す。だがキリアンの関心は、新奇な動きや形を創出することではなく、それによって人間の深みを描き出すことにあるようだ。キリアンによってダンスは思想になったといわれる由縁である。
 「クリック・ポーズ・サイレンス」(2000年初演)では、舞台後方に鏡が置かれ、その前ではテレビ・モニターがゆっくり回っていて、その画面ではダンサーたちが踊っている。光と影の交錯する舞台で、解体されたバッハの音楽にのって、三人の男とひとりの女があらわれ、接触し合い、そして去っていく。幕の使い方が実に巧い。
 初期作品「詩編交響曲」(1978年初演)をみると、キリアンの作品が年とともに深みを増し、陰を帯びてきたことがよくわかる。10日-13日、彩の国さいたま芸術劇場。