ナルシストから脱皮
マラーホフ公演

 (日経新聞 2002/7/22)

 まるで王子様が絵本から抜け出してきたようなダンサー、ウラジーミル・マラーホフが座長をつとめる公演も三度目を迎えた。
 マラーホフ自身は、王子(「くるみ割り人形」「白鳥の湖」)や夢想する詩人(「レ・シルフィード」)を踊ったほか、まさしく彼のための作品としかいいようのない「ナルシス」や、人気の高い「コート」を踊った。この作品はストロボを使って、まるで空中を浮遊しているかのように見せる余興的な小品だが、技術的にはきわめて高度である。
 マラーホフは、かつてはナルシシズムの塊のような印象を与えもしたが、最近、鼻につくような癖がなくなり、じつに上品かつ端正な踊りを見せるようになった。パートナーに対するサポートやリフトもじつに丁寧である。また舞台の随所に、共演者たちに対する彼の心遣いと、座長としての責任感が感じられ、そのために公演全体がとてもあたたかい印象を与える。
 パートナーのジュリー・ケントも素晴らしい。いまやアメリカを代表するバレリーナだが、十五年前に映画『ダンサー』でバリシニコフと共演した、あの可憐な美少女が、なんとも見事な成熟ぶりを見せていることに感動を覚えた。
 他の共演者たちの顔ぶれも豪華だ。女性だけを見ても、ルシア・ラカッラ、スヴェトラーナ・ルンキナ、バルボラ・コホウトコヴァを一度に見ることができるのだ。
 なかでもラカッラの存在感は他を圧倒していた。愛らしい顔に、理想的なプロポーション、恐ろしいくらいに柔軟で強靱な肢体、驚異的なバランス感覚。拍手がなかなか鳴りやまなかったのもうなずける。もっと頻繁に来日してもらいたいバレリーナの筆頭である。
 男性陣では、セルゲイ・フィーリンが「ラ・シルフィード」で見せた模範的なブルノンヴィル・スタイルが印象的だった。Aプロ11日、Bプロ13日、文京シビックホール