振付の欠点 主役がカバー
チューリヒ・バレエ「ロメオとジュリエット」

 (日経新聞 2002/6/27)

 スイスのチューリヒ・バレエが初来日し、熊川哲也とヴィヴィアナ・デュランテをゲストに迎え、『ロミオとジュリエット』を上演した。
 歴史は古いものの、長いこと地味で凡庸なバレエ団だったが、第二次大戦後、ニコラス・ベリオゾフ、パトリシア・ニアリーの尽力で急速に成長を遂げ、世界的にも知られるようになった。技術的に高水準の、力のあるバレエ団とみた。
 プロコフィエフ作曲『ロミオとジュリエット』はバレエ音楽の最高峰なので、数多くの振付家が挑戦してきたが、チューリヒ・バレエの芸術監督ハインツ・シュペルリによる振付は、マクミラン版やクランコ版のような名作と比べると、残念ながら明らかに見劣りがする。
 最大の欠点は、オーソドックスな動きの中に、モダンな、あるいはアクロバット的な振りを無理やり挿入するために、ダンスの流れが中断してしまうことだ。そのために観るものはダンスの中に没入することができず、時として前につんのめりそうになる。
 だが、そうした振付の欠点を補って余りあったのは、主役ふたりの好演である。彼らはふたりとも英国ロイヤル・バレエ在籍時代に、マクミラン版を踊り込んでいる。
デュランテの演技力はすでに評価が高いが、感情の襞を(顔の表情や細かいしぐさではなく)全身で表現するという、バレエの特質をまさしく体現していた。
 熊川のロミオは初めて見たが、すぐにかっとなる情熱的なロミオが多い中で、彼はさりげない抑えた演技で通し、都会的でクールなロミオを作り出していた。彼の跳躍やピルエット(旋回)の素晴らしさはあらためて言うまでもないが、今回も随所でさりげなく美しい旋回や跳躍を見せた。それが振付家の指示なのか、彼独自のアドリブなのかはわからないが、いずれにせよ振付の欠点をうまくカバーし、舞台を引き締めていた。6日、国際フォーラム。