「童子」に注ぐ優しい視線
モーリス・ベジャール・バレエ団/少年王
 (日経新聞 2002/4/11)

 『少年王』は二年前にヴェルサイユ宮殿で初演された。三人の少年王(ルイ十三世は十一歳で、十四世、十五世は五歳で王位についた)と、彼らの愛した宮殿を讃える祝祭バレエである。
 客席が明るいまま幕が開くと、まるで春の訪れを告げるように、萌葱色のレオタードを着た三十人以上のダンサーが、鉢植えの植物を捧げ持ち、舞台はさながら庭園のよう。そこに少年王(少女が演じている)が登場。ナレーターが「王は死んだ」と告げると、ダンサーたちが「王さま万歳」と唱和する。
入れ替わり立ち替わりに王妃や貴族たちが登場し、雲に乗った王が天上から降りてくるが、その世界は自在に時空を超え、バロックの衣裳をまとった王を、スポーツ選手のような衣裳の少年たちが取り囲み、レオタードの少女達が跳び回る(衣裳はヴェルサーチ他)。
 最近のベジャールの作品には「せりふ」が多いが、ここでもモリエール、コルネイユ、サン=シモン、モーツァルトらのテキストが語られる(事前に配られた長い対訳を、観客は暗闇のなかで追わねばならず、できれば字幕が欲しかった)。
 やがて四人目の少年としてモーツァルトが登場。ダンサーたちが冒頭の鉢植えに替えてバイオリンを捧げ持ち、愛と音楽の不滅を讃えるうちに、幕が下りる。
ベジャールは半世紀近くつねに現代バレエの最先端にあって、エロスとタナトスの織りなす濃密で官能的な世界を創出してきたが、『少年王』はきわめてアポロン的で、私はそこに、若さへの執着や時間への抵抗ではなく、時の流れと老いを素直に受け入れた芸術家が「童子」像に注ぐノスタルジックな優しい眼差しを感じた。
 ジョルジュ・ドン亡き後、カンパニーのリーダーをつとめてきた、ナレーター役のジル・ロマンがダンサーたちを裏から支え、全体を引き締めていたのが印象的だった。併演は「タンゴ」と「ホランとテレサ」。十四日まで、東京文化会館。