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松山バレエ団「くるみ割り人形」 (日経新聞 01/12/27)
年末になると世界中で『くるみ割り人形』が上演される。「バレエの第九」と呼ばれるゆえん。ただしこちらはあくまでお子さま向けである。音楽はチャイコフスキーの、メロディーメイカーとしての面目躍如たる珠玉の名曲だが、台本には大きな欠陥があり、前半はストーリーだけで本格的な踊りがなく、後半は踊りばかりで筋がない。このアンバランスさの解消に成功した振付家はまだいない。
演出・振り付けの清水哲太郎は古典主義者なので、その演出は他のバレエ団と同じく全体としてはオーソドックスだが、最後のほうに『ロミオとジュリエット』を思わせる、主役の少女クララと王子の「別れのパ・ド・ドゥ」があるのが大きな特徴。この場面がいちばんの見どころといっても過言ではない。
清水はまた完璧主義者で、舞台をダンサーで、そしてその身体を動きで、埋め尽くそうとする。団員たちのレベルはひじょうに高いが、全員が清水のスタイルで完璧に染め上げられているために、いささか息苦しく感じる。また、首をぶるぶる振ったり、小刻みに足を震わせるといった、彼の振付には独特のクセがあるが、外国の振付家に頼ることなく、バロック・ダンスの典雅さを思わせるような「松山スタイル」を独力で築き上げた功績は高く評価されてしかるべし。
主役の森下洋子については説明不要だろう。玄関の階段をおりるとき、あやうく雪で滑りそうになるところの芸の細かさ、プレゼントの箱を開けるときの震える手先など、演技のあらゆる細部に神経がゆきわたっていて、一瞬たりとも乱れるということがない。グラン・パ・ド・ドゥでは完璧な踊りを見せる。今年舞踊生活五〇周年を迎え、先頃、団長に就任したが、清純さは微塵も失われていない。爛熟した妖艶な女性の役は彼女には似合わない。ジュリエットやクララを踊るときにこそ、彼女の魅力は遺憾なく発揮される。技術的には完璧の域に達し、表現力は円熟味を増したにもかかわらず、その魂においては永遠の少女なのである。(23日、簡易保険ホール)
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