勅使川原三郎「ラジ パケ」
(日経新聞 00/12/26)

 ここ二十年間の、日本のいわゆる現代舞踊界における最大の事件は、勅使川原三郎の出現であり、現在の最大の問題は、勅使川原を超える、あるいは彼に匹敵するアーティストが出てこないということであろう。
その勅使川原の新作「ラジ・パケ」では、幕が上がる前から、舞台前面の柵で囲われた場所で、真っ白なウサギたちがうずくまったり、走り回っている。
幕が上がると、後方にいるバンドがジャズともロックともつかぬ音楽を大音響で演奏し、レーザー光線が稲妻のように走る。舞台には四本の杭が立っていて、ダンサーたちが交替に出てきては踊る。ある者は痙攣したように猛スピードで、ある者はスローモーションで。ひとりはマイクで怒鳴り続ける。大男が少女をふりまわす。三人のダンサーによって、古い日本映画の一場面が何度も繰り返し演じられる。ヨーロッパから招いた三人のダンサーの存在感が光る。
第二幕の幕が上がると、スポットライトの中にいきなり二頭子牛が浮かび上がる。後方にはヤギがつながれている。ニワトリの一団が舞台を横切る。家畜小屋のような匂いが客席まで漂ってくる。ミュージシャンが牛たちと「共演」し、小さな相撲取りがオペラのアリアや「もういくつ寝るとお正月」を歌う。
そして勅使川原自身の、余人には真似のできない伸びやかな踊り。その独特のスタイルは健在だが、今回そのソロははからずも、背後で無邪気に跳び回る子ヤギとのデュエットになっている。
かつて勅使川原の舞台には鉄、ガラス、電気といった無機的で硬質なものへの偏愛が見られ、そのダンスは時代を切り裂く剃刀のようだった。アマチュアを集めてワークショップを主宰するようになってから、彼のスタイルは大きく変化した。今回、人工芝のような緑のシートが敷き詰められた舞台は、のどかな草原のように見える。宇宙の律動を身体で受け止めようとする姿勢は一貫しているが、彼のスタイルが今後どのように変化していくのか、興味を惹かれる。17日、新国立劇場。