ラスタ・トーマス
(日経新聞 00/11/7)

 天才ダンサーとして世界中の注目を集めているラスタ・トーマスの初めての座長公演。彼はまだ十九歳。
 最近、舞踏と武闘の親近性が注目されているが、この公演でも両者の密接な関係が実感できた。ラスタは国際バレエコンクールで一度ならず優勝しているが、典型的な「体育会系」ダンサーで、「僕の最初の神様はブルース・リー」そうだ。子どもの頃にテコンドーの世界チャンピオンにもなっている。
 十七の小品が上演され、ラスタはそのうちの五つで踊った。並みのテクニックではない。おそろしく柔軟な体を駆使して、回転し、跳躍する。いってみれば、ウルトラEの技である。しかも古典から新作までオールマイティ。
 ゲストもまた超絶技巧の持ち主ばかり。ダイナミックな踊りを見せる佐々木大も、艶やかな下村由理恵も、世界のトップレベルのダンサーだし、フェルナンダ・タヴァレス=ディニスは三年前の世界バレエ・フェスティバルで観客の度肝を抜いた。十七歳というレナータ・パヴァムの上品なテクニックにも感動した。ダンス・ブラジルは、世界的に流行しているカポエイラ(ブレイク・ダンスのルーツともいわれる格闘技)を中心に、じつにユニークなダンスを見せた(ただし舞台作りがまだ未熟)。
 だが残念ながら、実力あるダンサーがそろっているというのに、見終わった後、満足感が得られなかったのは、古典はともかく、新作の振付がどれもいまひとつ面白くないからである。ラスタと佐々木のデュエットも期待外れだった。振付家がダンサーの技巧をうまく生かせないでいる、というか、並外れた超絶技巧に追いついていないのだ。
 ラスタは「二十一世紀のニジンスキーと呼ばれたい」そうだが、跳躍と無類の表現力で一世を風靡したニジンスキーはその後、テクニックには頼らずに、バレエを超えたまったく新しい様式のダンスを創造した。ラスタもそれを目指してほしい。自分で振付をやらないなら、彼の芸術性を引き出してくれる振付家を探し出すことだ。31日、厚生年金会館。