坂東玉三郎舞踊公演/舞踊と三曲
(日経新聞 00/9/5)

 新しく生まれ変わった旧銀座セゾン劇場の再出発記念公演。
 板東玉三郎は、歌舞伎の名役者であるだけでなく、国際的評価を得た舞の名手として数多く舞踊公演をおこなってきたが、今回は、琴・三味線・胡弓の演奏(『阿古屋琴責』)を挟んで、地唄舞の『雪』と、長唄『藤娘』という屈指の名曲をふたつ見せた。
 出家した元芸妓が、恋人を待ち続けて明かした夜を回想するという内容の『雪』は、地唄舞の中で最も有名な曲だが、ここまで広く世に知らしめたのは武原はんである。地唄舞は極限まで動きの抑制された舞踊で、本来は座敷で舞うものだが、はんはそれを劇場舞踊として再生させた。
 玉三郎は今回初めてこの曲を舞うにあたって、あえて武原はんに自分を模し、同じ鬘、同じ白い衣裳(ふつうは黒紋付きが多い)をつける。はんの『雪』はひとつの頂点を極めたといえるが、あえてその曲を取り上げたところに、玉三郎の自負と自信をみた。そして玉三郎独自の『雪』が生まれた。かつてはんの『雪』は「日本美の精髄」といわれたが、私にいわせればパブロワやニジンスキーの血をも引く玉三郎の『雪』は、日本的なるものを超えて普遍美の精髄へといっそう近づいている。
 さていっぽうの『藤娘』を、玉三郎はほぼ三十年にわたり二百回近くも踊り込んでいる。今回は藤を描いた銀屏風の前で踊る。
 暗いまま幕が開いて、それがぱっと明るくなった瞬間、黒塗傘をかぶった娘姿のあまりの美しさに、場内のどよめきはなかなか収まらない。最近は爛熟ぶりが目立つ玉三郎だが、うぶで可憐な小娘を踊るその見事さには目頭が熱くなる。クドキの部分の酔態、そして玉三郎ならではの心地よい手踊りをへて、藤の枝を背中から回して高く掲げ、まるでそれを伝って天まで昇っていくような幕切れまで、文字通り「一場の夢」であった。
 歌舞伎・舞・踊りといったジャンルを超えた視点に立って創造行為を続けるスケールの大きなアーティストの存在感に圧倒された。2日、レ テアトル銀座。