|
Kバレエカンパニー/カルメン
(日経新聞 00/6/27)
世界でも指折りのバレエ・ダンサー、熊川哲也の名を知らぬ人はいまい。英国ロイヤル・バレエ学校をへて、東洋人として初めてロイヤル・バレエ団に入団し、史上最年少でソリストになり、瞬く間に最高位のプリンシパルまで上りつめたかと思ったら、ほんの数年で退団し、自分のカンパニーを結成して活動している。
そのKカンパニーの公演はこれまで、大きなバレエ団を離れて自分のやりたいことができるという熊川の歓びは伝わってきたが、これから何をやろうとしているのかは見えず、「お披露目」の域を出なかったといえよう。今回の公演をみて、この一座が世界のバレエ・シーンの一翼を担う強力なバレエ団として姿をあらわしてきたと感じた。二〇日以上の公演で全席完売という事実じたい、バレエ史上の一大事件といっていい。
前半で、あまり見る機会のない佳作小品を三つ見せたあと、後半でローラン・プティ振付の『カルメン』が上演された。五〇年以上前に作られた作品だが、少しも古びていない名作である。
まず作品全体として細部まで神経の行き届いた素晴らしい公演だったことを特筆したい。バレエにキャバレーの雰囲気を取り入れたプティの作品は、随所に見られる独特で微妙なしぐさと足さばきに特徴があるが、それがじつに見事に再現されていた。
ビゼーのオペラでは、カルメンは気性の激しい奔放な女だが、プティのバレエでは蠱惑的でセクシーな美女である。またオペラのドン・ホセは直情径行の小心者だが、バレエのホセはダンディな美青年だ。その主役カップルを熊川とヴィヴィアナ・デュランテが完璧に体現していた。ディランテの踊りの美しさには目頭が熱くなった。
熊川はこれまでしばしば「テクニックは抜群だが、演技力に欠ける」と言われてきたが、今回の公演でそうした批判を一気に吹き飛ばした。カルメンを殺す直前に彼が顔に浮かべた鬼気迫る表情は、アーティストとして一回りも二回りも大きくなったことを物語っていた。29日まで、東京文化会館。
|