著書3 踊る世紀

踊る世紀

新書館

1994年2月20日発行

     


 

 <このページの内容>

書評(浦雅春氏)抄

目次


    

書評 (週間読書人 1994年4月22日 評者・浦雅春氏) 部分

 本書は芸術のみならずファッション界をも駆け抜けた「バレエ・リュス」の1909年パリのシャトレ座での公演の衝撃をまくらに、この革新的なバレエを育んだロシアのバレエの歴史をたどろうとする。もちろん、ここにはチャイコフスキーの有名な3大バレエの分析をはじめ、プティパやイヴァーノフ、フォーキンらロシア・バレエを築いたコレオグラファーの紹介など、バレエ史に欠かせぬ知識が盛り込まれている。だが、これはたんなるバレエ史の本ではない。
「問題はバレエの外側で何が起きていたのかが皆目わからないことだ。(中略)『ジゼル』の初演された劇場から一歩外に出ると、そこにはどんな社会があったのか、それについて欠いてあるバレエ史の本はない。つまり、バレエ史の本では、あるコレオグラファー、ダンサー、あるいは作品の、舞踊史上の位置づけはわかっても、それらの文化史的あるいは文明史的な位置づけ、『意義』あるいは『意味』がまったく見えてこないのである」、と著者はバレエの「外部」へと測鉛を垂らすのだ。
 こうした「外部」に対する関心によって、「バレエ・リュス」に結晶したロシアの象徴主義の豊かさや、1905年の革命の挫折とダンサーたちの流失の原因、ロシアとフランスの伝統的な文化的つながり、問いのヨーロッパにおける「エキゾティズム」や「東方」の発見、エロティシズムの解放といった社会の動きが見えてくるのである。
 この「外部」は白鳥の系譜学やスパイとして名高いマタハリのダンス、ダンカンの死に象徴される「自動車の世紀」としての20世紀の問題にまで及んでいる。バレエの比喩を使えば、こうした楽しくためになるディヴェルティスマン的知識によって本書の内容の厚みがぐんと増しているのは言うまでもない。

 


目次

プロローグ

第1幕

パリのロシア人/遠い東方の國/エキゾティスム/東方の誘惑/憂鬱症のユダヤ人/結果と展望

第2幕

皇帝とバレエ/ピョートル大帝のアサンブレ/ディドロ以前・以後/タリオーニ来たる!/ロシアの舞姫たち/そしてついに、プティパが・・・/白鳥の湖/プティパ時代の終焉/イヴァーノフとゴールスキイ

第3幕

裸足のイザドラ/フォーキンの時代/二人のピエロ/ペトルーシュカの涙/興行師の世界/あの人の生首をください

エピローグ