著書6 「精神分析入門」を読む

「精神分析入門」を読む

NHK出版

2000年2月20日発行

    

     


 

 <このページの内容>

「はじめに」

目次


はじめに

 これからみなさんとご一緒に読んでいく『精神分析入門』という本は、第一次世界大戦中に、精神分析の創始者ジクムント・フロイトがウィーン大学で実際に行った講義です。ヨーロッパの大学では、学年は秋に始まって春に終わり、夏に長い休みがあります。フロイトの精神分析入門講義は、1915年秋から16年春にかけてと、16年秋から17年春にかけて、この2年度にわたって行われました。前半では、フロイトはまず日常の失錯行為ーー言い違い、書き違い、度忘れ、物をなくす、といったことーーを扱い、ついで夢について講義しました。2年目の講義では、全体を通じて神経症の理論ーーこれが精神分析の理論のメインなのですがーーについて学んでいくことになります。
 講義が行われたのは毎週土曜日の夕方でした。受講生は主に医学部の学生や病院に勤める医師でしたが、そのほかに一般の人も聴講に来ていました。フロイトの後継者となる末娘のアンナ・フロイトも聴講していました。
 その後、この講義は単行本として出版され、フロイトの著作のなかでは最も有名な著作となりました。原文はドイツ語ですが、15カ国語以上に翻訳されているようです。日本でも、もちろん翻訳が出ています。
 フロイトは、自分の考えを一般の人に理解してもらうために、自分の理論を要約するとか、入門書を書くことに精力を傾けた人です。たとえば『夢判断』というのはとても厚い、読むのに体力のいる本ですが、フロイトは『夢判断』を出版したあとすぐに、そのエッセンスをまとめた、『夢について』という薄い本を出しております。また、1909年にはアメリカのクラーク大学に招待され、5日間にわたって講義をしましたが、その内容はのちに『精神分析5講』という名で出版されています。このようにフロイトは、自分の考え方をコンパクトにまとめ、より広範な読者にわかってもらおうと努力する人でしたが、彼自身が書いたいろいろな概説書のなかでも、精神分析理論を最も包括的に論じているのが『精神分析入門』です。
 この本は、その名のとおり入門書ですから、フロイトの他の著作と比べれば、比較的読みやすいものですが、しかし、かなり厚い本ですし、けっして「易しい」本ではありません。とくに現代の読者にとっては、いささか骨の折れる本だと思います。
 それで、これから24回にわたって、みなさんとご一緒にその本を読んでいこうというのです。どういうふうに読んでいくかというと、フロイトの文章を私なりの言葉に置き換え、ある部分は省略し、またある部分については説明を付け加えながら、読んでいおうというのです。どこからどこまでがフロイトの原文で、どこからが私の註釈であるかは、だいたいおわかりになると思いますが、必ずしも明確ではありません。あくまでフロイトの原文をそのままお読みになりたいという方は、実際に原書なり翻訳書をお読みになってください。ただ、その場合でも、この講義がガイドブックとして多少はお役に立つのではないかと思います。要するに、以下の講義は、私というフィルターを通した『精神分析入門』なのです。


    

 目次

1年目の講義

1 精神分析を学ぶとは
2 まず日常的なことから
3 恋敵の名前は覚えられない
4 貸家とトイレ
5 夢とは何か
6 夢の裏表
7 ライオンはカモシカの夢を見る
8 夢の検閲と象徴
9 材木と紙は女性の象徴
10 夢の実例
11 エディプスの神話
12 夢は願望充足である

2年目の講義

1 こころの病
2 症状とは何か
3 過去にしがみつく
4 無意識というもの
5 性欲は幼児にもある
6 エディプス・コンプレックス
7 快感原則から現実原則へ
8 不安と恐怖
9 ナルシシズムは消えない
10 分析家への愛と憎しみ
11 「私」と「それ」
12 精神分析は世界観になりうるか