「はじめに」より
本書では、「無意識の世界」についてお話します。 ただし、無意識についての私個人の考えをお話するわけではありません。無意識という概念を中心に、一つの学問・理論体系をつくりあげた人たちがいます。それらはやがて一つの思想にまで発展するのですが、ここではそうした人たちのなかから、前半ではフロイト、後半ではユングをとりあげ、この二人が無意識という問題をどんなふうに考えたのか、それについてお話をしようと思います。 無意識ということばはそれほど古いことばではありません。人間の心のなかには自分でも意識していない部分(これが無意識ですが)があるという考え方は古代からありました。しかし、その部分を無意識と名づけ、それを中心にして人間の心の構造と機能を明らかにしようとしたのはフロイトがはじめてです。 ユングは、はじめてはフロイトの考え方に同調していましたが、やがてフロイトとは袂を分かち、無意識に対する独自の考えを発展させました。 フロイトやユングの学説・理論は、一般に精神分析とか深層心理学と呼ばれますが、フロイトが最初に彼の考えを公にしたのは二〇世紀初頭で、その考えはやがて世界的に大きな影響力をもつようになりました。だから二〇世紀は無意識をめぐる思想の時代であった、精神分析の時代だった、といっても過言ではありません。二一世紀を迎えても、彼らの思想の重大さは減じないでありましょう。 ただし、どのような学説・理論も時代とともに変化し、発展させられたり修正されたりします。精神分析学、心理学、精神医学の世界で、現在、フロイトやユングの考え方をそっくりそのまま金科玉条のごとく奉じている研究者はほとんどいません。無意識に対する考え方も、時代とともに大きな変化をこうむっています。 現在、多くの精神分析学者や精神医学者が人間の心について、さまざまな見解を述べています。しかし、それらのほとんどは、もとをただせばフロイトやユングから出発しています。よく「精神分析は時代遅れだ」と言われたりしますが、出発点であるフロイトやユングの考え方を勉強することはけっして無駄ではないのです。いや、フロイトやユングの書いたものは有益な示唆に富み、読むたびに新たな発見があるほどです。
目次
はじめに
フロイト
1 無意識とは何か 2 精神分析の祖先を探ると 3 心理学者フロイトの誕生 4 ヒステリーと抑圧のメカニズム 5 オイディプス・コンプレックス 6 夢判断 7 本能と欲動 8 性欲は「発達」するもの 9 自我とエス 10 芸術を精神分析する 11フロイトの日常と晩年
ユング
1 ユングの生い立ち 2 もう一人の巨匠アードラー 3 人間をタイプに分類する 4 ユングの8つのタイプ 5 フロイトとの訣別 6 集合的無意識と元型 7 影とは何か 8 アニマとアニムス 9 母親の元型 10 自我と自己 11 象徴としての夢 12 ユングとオカルト
参考文献
フロイトとユング 関連年表