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あとがき
メルヘンは子どもだけのものではない。大人が読んでも面白い。メルヘンには、あらゆる世代の人間に訴える何かがそなわっているのだ。 子どもには子どもの、大人には大人の、メルヘンの楽しみ方がある。本書を読んで、大人のメルヘンの楽しみ方が少しでもわかっていただけたら幸いである。 『グリム童話集』に盛り込まれた十九世紀ブルジョワジーのイデオロギーをめぐる問題は、二十世紀末を生きる私たちにとって、笑いごとで済ますことのできない深刻な問題である。それでも私は本書において、「楽しみ方」とか「面白さ」という言葉を繰り返し用いた。それは、どんな変革への意志も、知的な好奇心から生まれると思うからである。 最後にグリム童話集の末尾に置かれたメルヘン「金の鍵」〔二〇〇〕を引用して、本書を締め括るとしよう。 雪が深く降り積もった冬、貧しい少年が、外に出て薪を集めて橇にのせてくるよういいつかりました。少年は薪を集めて橇に積み込むと、あまりに寒かったので、すぐには家に帰らず、火をおこして少しあたたまろうと思いました。 そこで雪をかきわけ、地面を平らにしていると、小さい金の鍵を見つけました。鍵があれば、それに合う錠前もあるはずだと思って土を掘ると、鉄の小箱が出てきました。「鍵が合いますように。箱の中にはきっと高価な物が入っているにちがいない」と彼は思いました。 なかなか鍵穴が見つかりませんでしたが、とうとう、ほとんど見えないくらい小さな穴を見つけました。試してみると、鍵はうまく合いました。そこで一度ぐるりと回しました。さて、彼がすっかり蓋をあけるまで、私たちは待たねばなりません。そうしたら、どんなに素晴らしい物が小箱に入っていたかがわかるでしょう。 末筆ながら、講談社の鷲尾賢也氏に心から感謝の意を表したい。氏の「愛の鞭」がなかったら、本書はできあがらなかった。 一九九〇年十一月 鈴木晶 |