ザハロワのジゼルを観るのははじめてだが、正直なところ、それほど期待はしていなかった。彼女はロマンティックよりもクラシック向きのバレリーナだし、何しろ女神か女王の風格の持ち主だからである。
アルブレヒトは貴族が村人のふりをしているわけだが、ザハロワのジゼルはまるで女王が村娘に扮しているような印象を受けた。あまりに高貴だからだ。それでも、彼女の細やかな演技には感動した。ちょっとした仕草にも神経がゆきとどいている。数年前に比べると、その表現力の奥行きは段違いである。
「ジゼル」はロシア・バレエの中でも最も古いレパートリーのひとつであるから、ロシアのほとんどのバレリーナにとってひじょうに身近なレパートリーである。すべてのバレリーナが踊るわけではないだろうが(マハリナがジゼルを踊るのかどうか、寡聞にして知らないが、あまり想像がつかない)。ザハロワを観ても、自分のものにしているなあということがよくわかる。
第二幕は極上であった。私は40年間にわたって数知らないほどの「ジゼル」を観てきたけれど、そのなかで最高だった。こんなに美しい舞台は観たことがない。ザハロワのスタイルとテクニックが完璧であることはいうまでもないが、その高貴さが第二幕では霊妙さとなり、本当に神秘的で霊感溢れるジゼルであった。
ちなみに、「バヤデルカ」のときに書くのを忘れたが、ルジマトフにも感動した。ほとんど衰えていない。ザハロワのおかげかもしれないが、若返ったような気がする。
休憩時間に「ルジマトフ、命」のマダム・モレシャンが私の席まで来て、話していたのだが、彼女の眼はもうハートになりっぱなしだった。
私「バレエをみるとき、オペラグラスでみるのは邪道かもしれないけど、つまり、舞台全体をみるべきなのだろうけど、きょうはどうしても主役に目がいってしまいますね。私の場合はとくにザハロワに」
マダム「そうそう、でも私の場合はもちろんルジマトフ!」
厳密にいうと、最盛期(デュポンと張り合っていた頃)と比べて、ルジマトフの振りが少し大きくなっている。同じジャンプや回転をするにも、前よりもタメを大きくする必要があるのだろう。体力的には衰えてきているから、それは仕方がない。しかし、多少体の使い方が大きくなっても、以前と同じハイレベルを保っていることには驚嘆する。まじめな人だから、きっと日頃の精進の賜物なのであろう。以前と同じく、ほとんど着地音をさせない。これにも感心した。前にも書いたが、バジルはあわないが、ソロルやアルブレヒトはすばらしい。