昨年夏には直前に来日が中止になり、その後キーロフをやめてしまったために秋のキーロフ来日公演でも見ることができなかった、そのザハロワをついに見ることができ、感激も一入である。
まだムジカという会社がキーロフを招聘していた頃、オーチャード・ホールで「くるみ割り人形」を見たのが最初だった。それ以来、「100年に一度の逸材」と宣伝しまくっていたのだが、当時はまわりにあまり納得してもらえなかった。だが、今の彼女を見れば、その凄さに誰もが納得することだろう。
1895年、マリインスキー劇場で『白鳥の湖』の蘇演版が初演されたとき、ある批評家はオデット=オディールを踊ったピエリナ・レニャーニ(世界で最初に32回フェッテをやってみせたバレリーナ)について、「テルプシコレー(舞踊の女神)が、レニャーニという偽名で、マリインスキー劇場に登場した」と書いている。
まったく同じことを私も書きたい。ザハロワのニキヤは新国立劇場で見たことがあるが、そのときよりもずっとよくなっている。「進化」したともいえようし、「深化」したともいえよう。新国立劇場で踊ったとき、誰かがどこかで、「このバレリーナは何を考えているのか、よくわからない」と書いていた。そう、たしかに感情表現に乏しかった。女神だから冷たいのは当然なのだが・・・
オペラグラスでバレエを見るのは、あるいは邪道なのかもしれない。本来は舞台全体を俯瞰すべきものである。が、今日ばかりはオペラグラスから眼が離せなかった。手足の先まで神経がゆきわたり、表現がじつに微細なのだ。
完璧としかいいようがない。しかも神々しい。まさに女神である。最初に登場したときから、もう涙がとまらなくて困った。
素晴らしいダンサーをみたとき、私はいつでも二つの相反する感情に襲われる。ひとつは「この人の踊りをもっと見たい」という感情、もうひとつは「ああ、満足。もうこれで死んでもいいや」という感情。
今回もその二つを同時に感じたのであった。
余談。客席にペレンがいたので、手を振ったら、ちゃんと覚えていてくれて、例の魅力的な微笑を送ってくれた。また、私の席の近くに草刈民代ちゃんが座っていて、彼女からも丁寧なご挨拶を頂く。さらに休憩時間には、「バレエ大好き弁護士」のHさんご夫妻が、新国立劇場の真忠久美子さんを紹介してくださる。ザハロワが見られただけでなく、一晩のうちに3人もの「超美女」に会ってしまって、「こんなに幸せでいいの?」という感じの、頭に血が上りっぱなしの一夜であった。