地方の公演もなるべく見なくては、と思いつつ、なかなか時間がとれないものだから、これまでほとんど見る機会がなかったのだが、今年から努力して地方にも出かけるようにしている。
というわけで、たまたまこの日だけ空いていたので、噂に聞いていた札幌舞踊会の「くるみ」を見に行くことにした。
まず驚いたのは、客席の女性たち(ほとんどは子どもを連れた若いお母さんたち)に美人が多いこと。東京と比べものにならないくらい多いのである。これには驚いた。幕が開いてから、出演者にも美形が多いのに気づいた(実際、タレントやモデルになる子も少なくないという)。
札幌舞踊会の出身である坂本登喜彦の演出振付である。結論からいうと、高く評価したい。
「くるみ割り人形」のオリジナルは完成された作品ではない。むしろ失敗作である。これは前から何度も書いているから、繰り返さない。
にもかかわらず、どこのバレエ団もほとんど工夫をしていない。あまりに怠慢だ。なぜ工夫しないのか。その理由は明白である。いまのままでも、お客が入るからだ。どこのバレエ団にとっても、「くるみ」がいちばんお客さんが入る。外国のバレエ団のなかには1年に「くるみ」を何十回も公演しているところもある。
これまで私が観た「くるみ」のなかで、いちばん面白かったのはAMP版である。現在は上演していないようなので、これを観たことがあるという人はほとんどいないだろうが、ふつう金持ちの家のクリスマス・パーティが舞台になっているのに、AMP版の舞台は孤児院である。振付家マシュー・ボーンのゲイらしさがもろに出ている、とても面白い版である。
ベジャール版も好きである。あのゲイの少年の母恋物語は泣かせる。ただし東京バレエ団よりも、ベジャールのバレエ団のほうがはるかにいい。
今回の「くるみ」(坂本版と呼ぼう)では、舞台を19世紀ヨーロッパから現代に移しており、どこの国かはどうでもいいようになっている。装置はシンプルだが、工夫されている。ごてごてした装置が多い中で、じつに新鮮である。
全体的なストーリーはオリジナルとほとんど同じだが、19世紀臭さは払拭されている。佐藤崇有貴のドロッセルマイヤーがじつによかった。これまで彼の踊りはあまりいいと思ったことがないのだが(彼は上半身がやたら硬い。本人もそれは認めている)、今回はとてもよかった。
ドロッセルマイヤーの他に、狂言回し的な役として、バービー人形みたいなキャラクターが登場する。これがじつに効果的で印象に残る。
人形として、アメラグの選手のキャラクターも登場する。
つまり、ヨーロッパ的なものをアメリカ的なものに変えているわけである。「ああ、マーク・モリスの『ハード・ナット』の影響を受けているな」と思った。坂本本人にそう言ったら、「知ってはいるが、ちゃんと観たことはない」と言っていた。それが本当かどうかは、わからないが、雰囲気が似ていることは否定できない。
その点がちょっと私は不満である。どうせ変えるのなら、アメリカではなく、日本的にしましょうよ。べつに和服を登場させろというのではない。たとえば日本には、セーラー服の超ミニスカートにルーズソックス、あるいはミニスカートの下にスパッツ(時にはジーパン)という、世界に類を見ない奇抜なファッションがあるではないか。
ネズミとの戦争場面もすっきりしてよかった。たいていのバレエ団のあの場面は眠ってしまいたくなる。
ただ、第二幕のほうはいささか平凡であった。まだ第二幕まで変える余裕がなかったということであろう。今後も工夫を重ね、どんどん変えていってほしいものである。
誤解されないように付言しておくが、とにかく変えればいい、などと言っているのではない。でも、オリジナルをそのまま上演しても面白くない場合(少なくとも私は面白くない)、面白くする努力が必要である。
オリジナルでじゅうぶん面白いという人がいたら、その人はバレエ鑑賞に関して怠慢である。「こういうものだ」と思い込んでしまっているのだから。