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新国立劇場バレエ/白鳥の湖
(2月4日、新国)

ハチ「師匠、年頭早々、更新が少ないっすねえ」
隠居「だからさ、バレエどころじゃないのよ」
ハチ「でも、きょうはお出かけになったんで?」
隠居「あったりめえよ」
ハチ「昨日まで寝込んでたんじゃなかったんすか?」
隠居「いや、そうだけど、ザハロワが踊るのを見逃すわけにいくか!」
ハチ「で、どうだったんすか?」
隠居「聞くのも野暮じゃ。最高。いうことなし」
ハチ「もう死んでもいい、って感じっすか?」
隠居「その通り! でも死なないけど。ペテルブルクに引っ越すことを考えておる」
ハチ「やってらんないね。で、どこがよかったんすか?」
隠居「全部。」
ハチ「舞踊評論家のくせに、いうことがアホみたいっすね?」
隠居「だから、新聞雑誌に書くときはあちらさんが勝手に『舞踊評論家』という肩書きをつけて、こちらもあえて文句はいわんが、ここに書くときは評論家でもなんでもねえんだよ」
ハチ「要するに、ただのファンだと」
隠居「そう、そうなの。ファンってえのはな、アイドルさまのおならも臭くないの」
ハチ「最高、最高って、おっしゃるけど、同じキーロフでもロパトキナのほうが上だって噂じゃないっすか」
隠居「そんな噂があることは知っとる。が、気にしたことはない。たしかにロパトキナのほうが踊りに陰影がある。ロマンティックな踊りなら、ロパトキナのほうが上だろうな。でも、わしはロパトキナ、好きじゃないもん。たしかにザハロワには陰影はない。純白だな。プラチナといったほうがいいかな」
ハチ「ザハロワは表現力に欠けるっていうじゃないっすか」
隠居「おまえもからむね。たしかにザハロワは感情の起伏なんか表現せんよ」
ハチ「ご隠居は口癖のように、表現力・演技力のないダンサーが多すぎるって、グチをこぼしてるじゃないっすか」
隠居「そう、いつもそう言っとるよ。でも、ザハロワにはそんなもん、必要ないのじゃ」
ハチ「そりゃまた、どうして?」
隠居「ザハロワはもう最初からオデットそのものなのじゃ。存在がそのものなんだkら、なんで表現力やら演技力が必要なんじゃ」
ハチ「それって、表現力があるってことじゃないんすか?」
隠居「違うね。表現力でオデットになっているんじゃなくて、最初からオデットなの。ザハロワは最初から女王なんじゃよ」
ハチ「なんだか、よくわからないっす」
隠居「わかってもらいたくもないわい。ファンっていうのはね、他人がなんといおいうと関係ないの。うちのゼミの香織なんか、わしがいくらキムタクの悪口をいっても、全然平気だぞ、憎たらしい」
ハチ「まあまあ脱線しないで。それで、オデットがよかったんすか、オディールが?」
隠居「だから、すべて最高だと言っただろ。でもな、ホントのこというと、オデットのほうが全然よかったね。超一流でないバレリーナはだいたいオディールのほうがいいんだがね。けっ。いやあ、きょう観たグランダダージュは今まで観たなかで最高だった。始まったときからもう鳥肌たちっぱなし。途中から涙がとまらなくなった。」
ハチ「まったく、つける薬がないね。で、黒鳥はそれほど良くなかったと?」
隠居「だから、全部最高だったといってるだろうが。黒鳥も非の打ち所なし。32回フェッテはアナニアシヴィリ並みのスピードで、しかも蹴る足先の高さは、おまえにも見せたかったね。あんな高い角度は観たことがないわい」
ハチ「で、ザハロワ以外の舞台は全然眼に入らなかったと?」
隠居「そんなことはない。いや正直なところ、体調はわるいし、もし第一幕の第一場と第二場の間に休憩があれば、そこから行きたかったね。いったん幕を閉めるんなら、そこで遅れてきたお客さんを入れればいいのに。でもきょうはどういうわけか、第一幕がとても面白かった」
ハチ「そりゃ、珍しいっすね。ご隠居、いつも寝てるじゃないっすか」
隠居「失礼な。でも、まあそうなんだがね。きょうはどういうわけか、マイムも素直に頭に入ってきて、全体に演出振付に好感をもっちまったなあ。でも、つまらんことだが、背景の城の絵ね、ありゃあ遠すぎるね。お后はあんな遠くからわざわざ来たのかね。あの絵は、ノイシュバンシュタインの模倣だよ。城そのものは全然違うが、あの孤立している岩山は」
ハチ「他の出演者になにか感想は?」
隠居「吉本のお兄ちゃんが頑張っておったぞ。妹も頑張ってほしいのう。パ・ド・トロワはよかった。法村くんも結城ちゃんも。もうひとりは知らん。でも、結城ちゃんはちょっと肥りすぎじゃないかね」
ハチ「ザハロワと比べたら、みんな肥りすぎでしょ」
隠居「まあ、そうかもな。しかし、ザハロワの筋力には感動したね。足を上がるときなど、勢いをつけるとか、反動をつける、ってえのが皆無なんじゃよ。これがザハロワの最も素晴らしい点だな。きっと甲野善紀先生から古武道の極意を習ったんだろう」
ハチ「まさか」

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